イエジー・スコリモフスキー監督に会う



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新作『エッセンシャル・キリング』が公開(今夏、渋谷シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開)されるイエジー・スコリモフスキ監督にインタビューしてきました。

試写室日記に書いたように、『エッセンシャル・キリング』では自然や動物性が印象に残りますが、それは監督が人里離れた自然のなかで、日常的に野生の動物と遭遇するような生活を送っていることが大きいようです。

インタビューは7月売りの「CDジャーナル」に掲載される予定です。

映画から読み解くアメリカ激動のゼロ年代――『ダークナイト』 『シリアナ』 『扉をたたく人』

Review

9・11以降の変容と矛盾を斬新な視点で浮き彫りに

9・11同時多発テロやイラク戦争、リーマン・ショック、オバマ大統領の誕生など、アメリカのゼロ年代(2000年~09年)は激動の時代だった。そんな事件や社会情勢の変化は同時代のアメリカ映画にも大きな影響を及ぼした。なかでも特に映画人の想像力を刺激したのが「テロとの戦い」だったのではないだろうか。このテーマを斬新な視点と表現で掘り下げ、アメリカが抱える矛盾を浮き彫りにした作品が強い印象を残しているからだ。

「バットマン」シリーズの一本であるクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(08)では、ヒーローの矛盾を通してアメリカの矛盾が描き出される。バットマンという法に縛られないヒーローが必要とされるのは、悪がはびこり、法の番人では歯が立たないからだ。しかしこの映画では、ヒーローと悪の関係がねじれていく。

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『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

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『海洋天堂』 『アリス・クリードの失踪』 『いのちの子ども』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『海洋天堂』 シュエ・シャオルー

『北京ヴァイオリン』の脚本家として注目を集めたシュエ・シャオルーの監督デビュー作。撮影はウォン・カーワイ作品でおなじみのクリストファー・ドイル。主演はアクションを封印したジェット・リー。末期癌で余命いくばくもない父親が、ひとり残される自閉症の息子のために奔走する。

単に親子の絆を描くだけではなく、自閉症の息子という“他者”の世界が意識されている。この映画のなかでは、自閉症の世界は海の世界として表現される。父親が勤める水族館の水槽のなかを自由に泳ぎ、水中から父親を見る息子と、水槽のガラスを隔てて息子を見る父親。

その壁がどのように消し去られるのか。映画は海で始まり海で終わるが、その間に海が象徴するものが変わっていく。

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グザヴィエ・ボーヴォワ 『神々と男たち』レビュー



Review

「人間」と「神々」のあいだ

■■修道士たちはなぜアルジェリアに残ったか■■

1990年代のアルジェリア。人里離れた村にある修道院でカトリックのフランス人修道士たちが、厳格な戒律に従い禁欲的な生活を送っている。彼らは礼拝を行い、畑を耕し、イスラム教徒の住民と親交を深め、弱者や貧者に奉仕する。だが、吹き荒れる内戦の嵐はこの辺境の地にも押し寄せ、非イスラム教徒の外国人が標的となり、命を奪われていく。そこで修道士たちは土地を去るか残るかの選択を迫られる。

グザヴィエ・ボーヴォワ監督の『神々と男たち』は、1996年にアルジェリアで起きたGIA(武装イスラム集団)によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件を題材にしている。この事件は未だに不明な点が多く、謎が残されている。事件の背景には、アルジェリアと旧宗主国フランス、政治とイスラムの関係などが複雑に絡み合っている。

だが、この事件に最初に注目し、草稿を書いたエティエンヌ・コマールと監督のボーヴォワは、事件の真相に迫ろうとしているわけではないし、事件を通して背景を炙り出そうとしているわけでもない。彼らの関心は、内戦が激化するなかでなぜ修道士たちがアルジェリアに残る決心をしたのかに絞り込まれている。

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