『キツツキと雨』 『ガザを飛ぶブタ』 『別世界からの民族たち』試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。

『キツツキと雨』 沖田修一

『このすばらしきせかい』や『南極料理人』の沖田監督作品。役所広司と小栗旬のやりとりがあまりに可笑しくて、観ているあいだに何度吹き出してしまったことか。引き延ばしたり、スパッと切るドラマの間やタイミングも絶妙で。

『南極料理人』は原作があったので、設定や人物の関係がいくぶん整いすぎているところがあったが、この新作は『このすばらしきせかい』をシュールに発展させた感じ。『このすばらしきせかい』の主人公の若者と叔父さんの関係が、駆け出しの映画監督と木こりの関係に引き継がれている。

沖田ワールドに欠かせない古舘寛治が今回は狂言回しのようなポジションを担い、『このすばらしきせかい』で古舘が占めていたポジションに役所広司が入っているのだが、これがまたはまっている。それにしても映画監督と木こりがこんなふうに結びついてしまうなんて、面白すぎる。

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『コンテイジョン』 『指輪をはめたい』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『コンテイジョン』 スティーヴン・ソダーバーグ

パンデミックを題材にしたソダーバーグの新作。マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレットという豪華キャスト。

個人的には、この作品に限らず、パンデミックとかウイルスという題材と映画の相性はあまりよくないと思っている。見えないものをなんとか可視化し、動きとして表現しなければ緊張が持続しないからだ。だからこの映画も、見えないものから微妙に視点をずらしながら、可視化していく。

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想田和弘 『Peace』 レビュー



Review

瞬間の中に大切なものが見える

想田和弘監督の『Peace ピース』(10)は、『選挙』(07)、『精神』(08)につづく〝観察映画〟の最新作だが、その冒頭には「第3弾」ではなく「番外編」の文字が浮かび上がる。

この作品の出発点は、想田監督が韓国・非武装地帯ドキュメンタリー映画際から「平和と共存」をテーマにした短編を依頼されたことだった。想田監督の独自のアプローチである観察映画では、あらかじめテーマを決めることなく、先入観を排除して被写体にカメラを向ける。テーマは撮影や編集を通して後から見えてくるものなのだ。

だから彼は依頼を断るつもりだったが、岡山にある妻の実家に帰って、義父が世話する野良猫たちを目にして気が変わった。そして、短編の予定だった映画はいつしか75分の長編になっていた。

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アピチャッポン・ウィーラセタクン 『ブンミおじさんの森』 レビュー

Review

私たちはブンミによって現世と他界の境界に導かれる

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』には、常識では計り知れない出来事が起こる。だが、それを単純にファンタジーと表現してしまうと、何か大切なものが抜け落ちてしまうように感じる。

死期を悟ったブンミは、森の奥へと分け入り、洞窟の深い闇のなかで、自分がそこで生まれたことを思い出す。「生きているうちは思い出せなかったが」と語る彼は、すでに死者の側から世界を感知している。私たちはブンミによって現世と他界の境界に導かれている。そこで思い出されるのは「山中他界観」だ。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/08/04



週刊オススメ映画リスト

今回は『一枚のハガキ』と『モールス』の2本です。

『一枚のハガキ』 新藤兼人

新藤兼人監督が自ら「最後の映画」と宣言して作り上げた作品。監督の実体験をもとに戦争の悲惨さや不条理が描き出されるので、登場人物と彼らが繰り広げるドラマに関心が向かうかと思うが、もうひとつ見逃せないものがある。

たとえば、『ふくろう』に、登場人物を見つめる“ふくろう”という他者の視点があったように、この映画にも、鳥や虫の声を通して常に外部の自然が意識されている。そして、最後にそんな自然の声が大きな意味を持つことになる。詳しいことは、『一枚のハガキ』劇場用パンフレットの作品評をお読みください。

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