デヴィッド・O・ラッセル 『アメリカン・ハッスル』 レビュー

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積み重なる「偶然」のなかに「必然」を見出す

『世界にひとつのプレイブック』に続くデヴィッド・O・ラッセル監督の新作『アメリカン・ハッスル』は、1979年にアメリカで起きた政治スキャンダル「アブスキャム事件」を題材にしている。事もあろうにFBIが詐欺師と組み、アラブの富豪が経営する投資会社をでっち上げ、おとり捜査によって汚職政治家を摘発したというのがその概要だ。

だが、この映画を楽しむうえで事実は必ずしも重要ではない。ラッセルは事件に迫ろうとしているわけではないので、実名も使っていないし、人物像も脚色されている。但し、大いに笑えるからといって単なるコメディに仕立てているわけでもない。これはラッセル流の人間観察の映画であり、自分探しの物語でもある。

これまで足がつくことなく巧妙に詐欺を繰り返してきたアーヴィンと愛人シドニーのコンビは、ついに逮捕されてしまうが、野心に燃えるFBI捜査官リッチーから、自由と引き換えに先述したようなおとり捜査の話を持ちかけられる。チームになった彼らは、作戦を実行に移すが、アーヴィンの妻ロザリンが夫とシドニーの関係に嫉妬し、思わぬ行動に出たため、予期せぬ混乱状態に陥っていく。

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『鉄くず拾いの物語』 映画.com レビュー & 劇場用パンフレット

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ドキュメンタリーとフィクションの狭間に見る「リアル」

2014年1月11日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国順次ロードショーになるダニス・タノヴィッチ監督(『ノー・マンズ・ランド』『美しき運命の傷痕』)の新作『鉄くず拾いの物語』(13)に関する告知です。

この映画は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らすあるロマの一家に起きた出来事を、当事者を起用して描いた異色のドキュドラマで、ベルリン国際映画祭で三冠に輝いています。

「映画.com」の1月7日更新の映画評枠に、「ロマの一家の「リアル」を鮮やかに描出した人間ドラマ」のタイトルのレビューを、さらに劇場用パンフレットに「洞察と象徴を通して浮き彫りにされるロマの一家の現実」というタイトルのコラムを書いています。

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ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』 レビュー

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見えない力がせめぎ合う状況のなかで、いつしか最前線に立たされている者たちの悲劇

ポール・グリーングラス監督の新作『キャプテン・フィリップス』は、2009年にオマーンの港からケニアに向かうアメリカ籍のコンテナ船がソマリア沖で海賊に襲撃された事件の映画化だ。

乗組員20名、非武装のアラバマ号は、わずか4人のソマリア人海賊にあっけなく占拠される。そして船長のフィリップスには、さらなる苦難が待ち受けている。乗組員を守り、船を解放しようとした彼は、海賊とともに救命艇に乗せられ、人質となってしまう。

この映画は、フィリップスの勇気ある行動に注目が集まるはずだが、見所はそれだけではない。同じように実話を扱ったグリーングラスの過去の作品と新作には共通点がある。

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『ザ・イースト』 『ダラス・バイヤーズクラブ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ザ・イースト』 ザル・バトマングリ

主演から脚本・製作までこなす才女ブリット・マーリングと新鋭ザル・バトマングリ監督のコラボレーション第2弾。いまハリウッドで注目を集める彼らが選んだ題材はエコテロリズム。

マーリングが演じるのは、テロ活動からクライアント企業を守る調査会社に採用された元FBIエージェントのジェーン。サラと名前を変え、正体不明の環境テロリスト集団< イースト>に潜入した彼女は、大企業の不正や被害者の実情を知るうちに、彼らの信念に共感を抱くようになるが…。

キャストは、< イースト>のリーダー、ベンジーにアレクサンダー・スカルスガルド、< イースト>の重要メンバー、イジーにエレン・ペイジ、調査会社の代表シャロンにパトリシア・クラークソンという顔ぶれ。

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マルガレーテ・フォン・トロッタ 『ハンナ・アーレント』 レビュー

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絶対的無罪と絶対的有罪の鏡を砕くための揺るぎない思考

ニュー・ジャーマン・シネマを牽引してきた女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタの『ハンナ・アーレント』では、ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの生涯のなかで、1961年に行われたナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判に前後する4年間のドラマが描き出される。

強制収容所を体験しているアーレントは、自らの意志でアイヒマンの公判を傍聴してレポートを「ニューヨーカー」誌に連載し、その後『イェルサレムのアイヒマン』にまとめた。彼女の目に映ったかつてのナチス親衛隊中佐は、怪物や悪魔ではなく平凡な人間だった。

ちなみに、10数年前に公開されたエイアル・シヴァン監督の『スペシャリスト 自覚なき殺戮者』は、アーレントのこの著書をもとにアイヒマン裁判の膨大な記録映像を編集したドキュメンタリーだった。その作り手たちは、エチオピアの飢饉やルワンダのジェノサイド(「隣人による殺戮の悲劇――94年に起ルワンダで起こった大量虐殺を読み直す」参照)という同時代の現実を踏まえた上でアイヒマンに着目した。

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