東ドイツから気球で逃亡を図った家族の実話を映画化した『バルーン 奇蹟の脱出飛行』の劇場用パンフレットに寄稿しています



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物語の鍵は、親から子への眼差し

東西冷戦時代の旧東ドイツ。1979年に、自家製の熱気球に乗って西ドイツへの逃亡を図ったのは、ごく平凡なふたつの家族で、総勢8名のメンバーの半分は幼児を含む子供だった。

そんな実話を映画化したミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ監督の『バルーン 奇蹟の脱出飛行』(18)の劇場用パンフレットに、「物語の鍵は、親から子への眼差し」というタイトルでレビューを書いています。さり気なく伏線をちりばめ、緻密に構成された本作の導入部は要注目です。サスペンスやアクションだけでなく、前後の繋がりなどから主人公たちの複雑な心の動きを想像させるヘルビヒ監督の巧みな演出が光ります。

2020年7月10日(金)TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!

デスティン・ダニエル・クレットン監督『黒い司法 0%からの奇跡』レビュー



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デスティン・ダニエル・クレットから広がる人脈の輪、描き出す家族の深い絆

筆者ホームページ“crisscross”の方に、デスティン・ダニエル・クレットン監督、マイケル・Bジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソン共演の『黒い司法 0%からの奇跡』(19)のレビューをアップしました。クレットンとライアン・クーグラーとの繋がりや、家族に対するクレットン独自の視点などについて書いています。

レビューをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ

デスティン・ダニエル・クレットン 『黒い司法 0%からの奇跡』 レビュー

2020年6月17日ブルーレイ&DVDリリース、レンタル開始

実在の奴隷解放運動家を描いた『ハリエット』の劇場用パンフレットに寄稿しています

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ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化

19世紀半ばに奴隷州から自由州への逃亡を果たし、秘密結社“地下鉄道”の車掌となって奴隷解放運動家として頭角を現すハリエット・タブマン。彼女の自由への渇望、変容と覚醒を描くケイシー・レモンズ監督の『ハリエット』(19)の劇場用パンフレットに、「ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化」というタイトルでレビューを書いています。

本作では、窮地に陥ったハリエットが発揮する不思議な能力に戸惑いを覚える人もいるかもしれませんが、そのことについては様々な証言が残されています。そして、彼女の深く強い信仰心やニグロ・スピリチュアルが果たす役割とアフリカの口承文化や超自然的な力の信仰を結びつけてみると、その能力がとても興味深く思えてきます。

2020年6月5日(金)TOHOシネマズシャンテ他、全国ロードショー。

スティーヴ・マックィーン 『それでも夜は明ける』 レビュー

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檻に囚われた人間

イギリス出身の鬼才スティーヴ・マックィーンの映画を観ることは、主人公の目線に立って世界を体験することだといえる。

たとえば、前作『SHAME-シェイム-』では、私たちは冒頭からセックス依存症の主人公ブランドンの日常に引き込まれる。彼は仕事以外の時間をすべてセックスに注ぎ込む。自宅にデリヘル嬢を呼び、アダルトサイトを漁り、バーで出会った女と真夜中の空き地で交わり、地下鉄の車内で思わせぶりな仕草を見せる女をホームまで追いかける。だが、彼の自宅に妹が転がり込んできたことで、セックス中心に回ってきた世界はバランスを失っていく。この映画では、なぜ彼が依存症になったのかは明らかにされない。

新作『それでも夜は明ける』では、そんなマックィーンのアプローチがさらに際立つ。映画のもとになっているのは1853年に出版されたソロモン・ノーサップの回顧録だが、その原作と対比してみると映画の独自の視点が明確になるだろう。

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リティ・パニュ 『消えた画 クメール・ルージュの真実』 レビュー

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「下からの歴史」を炙り出すために

■ 大げさな観念を展開せず

カンボジアでは70年代後半にクメール・ルージュ(カンボジア共産党)の支配下で、150万とも200万ともいわれる人々の命が奪われた。プノンペン生まれのリティ・パニュは、10代半ばでこの悲劇を体験し、親兄弟や親族を亡くし、逃亡することで生き延びた。カンボジアとの国境に近いタイの難民収容所を経てフランスに渡った彼は、やがて映像作家となり、一貫してクメール・ルージュによるジェノサイドを題材にしたドキュメンタリーや劇映画を作り続けてきた。

新作『消えた画 クメール・ルージュの真実』でもその姿勢に変わりはないが、明らかにこれまでの作品とは異なる点がある。まず、パニュ自身の体験が直接的に語られている。しかも、その表現が独特だ。犠牲者が葬られた土から作られた人形たちを使ってかつて少年が目にした光景が再現され、アーカイブに残されたプロパガンダの映像と対置される。ナレーションに盛り込まれた回想や検証が二種類の映像と呼応し、動かない人形に生気が吹き込まれ、プロパガンダ映画の中の人々との間に皮肉なコントラストを生み出していく。しかしこの映画で注目しなければならないのは、そうした要素をまとめ上げている独自の感性だ。

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