『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 劇場用パンフレット

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寄り道とサイレントを愛するアレクサンダー・ペインの美学

2014年2月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ&新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショーになるアレクサンダー・ペイン監督の新作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書いています。キャストは、ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ボブ・オデンカーク。

“モンタナ州のウッドロウ・グラント様 貴殿は100万ドルに当選しました”――誰が見ても古典的でインチキな手紙を、すっかり信じてしまったウディは、はるか彼方のネブラスカ州リンカーンまで、歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。息子のデイビッドは、大酒飲みで頑固な上に年々思い込みが激しくなっていくウディとは距離を置いていた。だが、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、4州にわたる旅に出る。[ プレスより]

ギリシャ系の監督ペイン(本名:パパドプロス)とギリシャのアテネ生まれの撮影監督フェドン・パパマイケル(彼のキャリアの出発点にはギリシャ系のジョン・カサヴェテスという存在があり、息子のニック・カサヴェテスとも仕事をしている)。そんなギリシャ・コネクションが生み出した、独特の雰囲気を醸し出すモノクロ映像が素晴らしいです。

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デヴィッド・O・ラッセル 『アメリカン・ハッスル』 レビュー

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積み重なる「偶然」のなかに「必然」を見出す

『世界にひとつのプレイブック』に続くデヴィッド・O・ラッセル監督の新作『アメリカン・ハッスル』は、1979年にアメリカで起きた政治スキャンダル「アブスキャム事件」を題材にしている。事もあろうにFBIが詐欺師と組み、アラブの富豪が経営する投資会社をでっち上げ、おとり捜査によって汚職政治家を摘発したというのがその概要だ。

だが、この映画を楽しむうえで事実は必ずしも重要ではない。ラッセルは事件に迫ろうとしているわけではないので、実名も使っていないし、人物像も脚色されている。但し、大いに笑えるからといって単なるコメディに仕立てているわけでもない。これはラッセル流の人間観察の映画であり、自分探しの物語でもある。

これまで足がつくことなく巧妙に詐欺を繰り返してきたアーヴィンと愛人シドニーのコンビは、ついに逮捕されてしまうが、野心に燃えるFBI捜査官リッチーから、自由と引き換えに先述したようなおとり捜査の話を持ちかけられる。チームになった彼らは、作戦を実行に移すが、アーヴィンの妻ロザリンが夫とシドニーの関係に嫉妬し、思わぬ行動に出たため、予期せぬ混乱状態に陥っていく。

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ヤセミン・サムデレリ・インタビュー 『おじいちゃんの里帰り』:ユーモラスに綴られたトルコ系移民家族の物語

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実体験が埋め込まれた監督姉妹の脚本

トルコ系ドイツ人の監督といえば、ファティ・アキンがすぐに思い出される。女性監督ヤセミン・サムデレリは、そのアキンと同じ1973年生まれのトルコ系二世だが、本国で7ヶ月のロングランとなった監督デビュー作『おじいちゃんの里帰り』では、アキンとはまた違った独自の視点でトルコ系移民の世界を描き出している。

彼女はコメディにこだわり、三世代の家族の過去・現在・未来を見つめていく。一家の主は、60年代半ばにトルコからドイツに渡り、がむしゃらに働いて家族を養い、齢を重ねて70代となったフセイン。そんな彼が里帰りを思いつき、それぞれに悩みを抱える家族がマイクロバスに乗り込み、故郷を目指す。さらに、家族の歴史の語り部ともいえる22歳の孫娘チャナンを媒介に挿入される過去の物語では、若きフセインがドイツに渡り、妻子を呼び寄せ、言葉も宗教も違う世界に激しく戸惑いながら根を下ろしていく。

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ニコラス・ウィンディング・レフン・インタビュー 『オンリー・ゴッド』

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アートとは感情の解釈でその根底には衝動があり、セックスと暴力がキャラクターを定義づける

デンマーク出身の異才ニコラス・ウィンディング・レフン監督とライアン・ゴズリングが再びタッグを組んだ新作『オンリー・ゴッド』には、『ドライヴ』とはまったく違う世界が広がる。

この映画を観てまず思い出すのは、レフン作品の主人公たちが、その暴力性とは相容れないような複雑なセクシャリティを体現していることだ。タイのバンコクを舞台にした新作の主人公は、兄とともにボクシングジムを隠れ蓑に麻薬取引で幅を利かせるジュリアンだが、この人物も例外ではない。

僕が描くキャラクターたちはそのセックスライフによって定義されている。というのも、アートというのは感情の解釈であって、その根底には衝動があり、セックスと暴力がキャラクターを定義づけるからだ。たとえば『プッシャー』の主人公は、セックスをしない男で、女に愛情表現ができないために自分の首を絞めてしまう。『ブロンソン』の主人公は、名声を得たいがために刑務所に入る。自分のセックスライフを放棄する代わりに名声を手にするわけだ。『ドライヴ』でゴズリングが演じる男は、いわば純愛信奉者で、観念的な愛を求めるので彼女と結ばれることがない。『オンリー・ゴッド』のジュリアンの場合は、母親の子宮に鎖で繋がれ、それを断ち切れない男だ。だからセクシャリティが歪み、セックスができず、暴力で発散する

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ジェフ・ニコルズ 『MUD‐マッド‐』 レビュー

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サザン・ゴシック、少年のイニシエーション、そして打ちひしがれた男たちの再生

監督第2作の『テイク・シェルター』(11)で日本でも認知されるようになったジェフ・ニコルズは、デビュー当時のあるインタビューで大学時代にコンテンポラリーな南部作家に傾倒していたことに触れ、ラリー・ブラウン、ハリー・クルーズ、コーマック・マッカーシーの名前を挙げていた。

新作『MUD‐マッド‐』(12)は、南部で培われた“サザン・ゴシック”というナラティブ(物語)への愛着が凝縮されたような映画だが、興味深いのはこの作品に続くように、デヴィッド・ゴードン・グリーンや監督もこなすジェームズ・フランコが、それぞれラリー・ブラウンとコーマック・マッカーシーの小説を映画化した『ジョー(原題)』(13)や『チャイルド・オブ・ゴッド(原題)』(13)を発表していることだ。サザン・ゴシックは隠れたトレンドになっているのかもしれない。

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