『90年代アメリカ映画100』ついに完成!



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いま見つめ直す世紀末の風景
いよいよ2012年4月3日発売

たいへんお待たせいたしました。昨年末に出た『80年代アメリカ映画100』につづきまして『90年代アメリカ映画100』がようやく完成いたしました。『80年代~』のバラエティ感覚や充実度とはまたひと味違った“エッジ”のある本になっているのではないかと思います。コラムの執筆陣については、以下の表紙の帯をご覧ください。表紙の画像については説明不要ですね。裏は見てのお楽しみということで(筆者も主編の佐野亨さんもすごく気に入っている画像です)。

それでは内容の方を簡単に紹介させていただきます。まず、筆者の「アメリカ社会総論」と粉川哲夫さんの「アメリカ映画のメディア的側面」、そして町山智浩さんの「アカデミー賞作品賞に見るアメリカ映画界の様相」は、『80年代~』と対になっておりますので(町山さんの場合は、既刊の『ゼロ年代~』でも同じテーマを担当していただいています)、あわせてお読みいただくとさらに視野が広がるかと思います。

『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/22

週刊オススメ映画リスト

今回は『マリリン 7日間の恋』と『テイク・シェルター』の2本です。

『マリリン 7日間の恋』 サイモン・カーティス

『マリリン 7日間の恋』の物語は、後にドキュメンタリーの監督として名を残すコリン・クラークが書いた二冊の回顧録がもとになっている。筆者はどちらも読んでいないが、プレスによれば、一作目の『The prince, the Showgirl, and Me』では、『王子と踊り子』の第3助監督を務めたクラークの目に映ったモンローとローレンス・オリヴィエという二人の世界の軋轢が主に描き出され(40年前の出来事だが、クラークは撮影中、毎晩日記をつけていた)、二作目の『My Week with Marilyn』では、クラーク自身がマリリンとイギリス郊外を旅した一週間の出来事が記されているという。

この映画の成功の要因には、二冊の回顧録を巧みに組み合わせた脚本を挙げてもよいだろう。その結果として、映画の撮影現場が険悪な空気に包まれ、修羅場と化していくのに対して、その外でまるで映画のようなロマンスが芽生えていくという皮肉でめりはりのある物語が生まれた。

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ジェフ・ニコルズ 『テイク・シェルター』 レビュー

Review

“不安の時代”を象徴的かつリアルに浮き彫りにした出色の心理スリラー

リーマン・ショックから異常気象による災害まで、いまの世の中には日常がいつ崩壊するかわからないような不安が渦巻いている。アメリカの新鋭ジェフ・ニコルズ監督の『テイク・シェルター』では、鋭い洞察と緻密な構成によってそんな平穏に見える日常に潜む不安が掘り下げられていく。

掘削会社の土木技師であるカーティスは、妻のサマンサと聴覚に障害のある娘ハンナと、温かい家庭を築いていた。ところが、あるときから幻覚や幻聴、悪夢に悩まされるようになる。

迫りくる巨大な竜巻、茶色っぽくて粘り気のある雨、空を覆う黒い鳥の大群、突然牙をむく愛犬、凶暴化する住人など、あまりにもリアルなヴィジョンが彼の現実を確実に侵食していく。やがて彼は、避難用シェルターを作ることに没頭しだす。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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ポール・ハギス 『スリーデイズ』 レビュー

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代償は高くても自由を求める意味を考える

ポール・ハギスがアメリカ映画界で成功を収めるきっかけは、クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』(04)の脚本を手がけたことだった。F・X・トゥールの短編集『テン・カウント』(文庫のタイトルは『ミリオンダラー・ベイビー』)を原作にしたこの脚本には、ハギスの思いや独特の人生観を見出すことができる。

1953年、カナダ・オンタリオ州生まれのハギスは、20代でハリウッドにたどり着き、テレビの世界に入ってこつこつと経験を積み重ね、脚本家としての地位を築き上げた。しかしそれはあくまでテレビ界における評価だった。彼の夢は劇映画の脚本を書き、監督することだった。そこで、世紀が変わろうとするころ、40代後半にさしかかっていた彼は、だめもとで劇映画の脚本を書き出した。それが『ミリオンダラー・ベイビー』だった。

この映画に登場するヒロイン、マギーは、13歳からずっとウェイトレスとして働き、30代になってもボクシングのトレーニングを続けている。ハギスがそんな彼女に共感を覚えても不思議はないだろう。だが、彼が作り上げたのは、スポ根ものの成功物語ではない。

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